さつまいもはなぜ甘くなる?
芋類には、じゃがいもや里芋、長芋などもありますが、これらの芋は加熱により甘くなることはありません。
では、なぜさつまいもは甘くなるのでしょうか?
理由は、さつまいもに含まれているデンプン消化酵素のβ-アミラーゼが加熱により活発化し、デンプンを分解することで糖を生成するためです。
お芋の甘さの決まり方
加熱調理したさつまいもには、果糖やブドウ糖、ショ糖、麦芽糖の4種類の糖類が含まれていて、甘さはこれらの合算で決まります。一番多く含まれている糖類は麦芽糖、次いでショ糖となっています。また、どの糖類がどのぐらい割合で含まれているかは、品種により異なり、この違いが品種間の味わいの違いとなっています。
【果糖(フルクトース )】果物やはちみつなどに多く含まれている糖類で、ねっとりとしたコクのある甘さが特徴です。天然の糖類の中では最も甘く、ショ糖の約1.2~1.7倍もの甘味がありますが、この甘味は温度により変化し、低温では甘味が増加する性質があります。果糖が特に多く含まれているマンゴーやナシ、リンゴ、ブドウ、スイカなどの果物を冷やすと甘さが増すのはこのためです。逆に、モモやミカン、バナナ、パイナップルなどの果糖含有量が低めの果物は、冷やしてもあまり甘さが変わりません。
【ブドウ糖(グルコース)】果物や穀類などに多く含まれる糖類で、ぶどうから発見されたため「ブドウ糖」と呼ばれています。甘みの強さはショ糖の70%程度ですが、爽やかな甘みが特徴です。人間の1日に必要なエネルギーの約20%は脳で消費されていますが、そんな脳がエネルギーとして利用できる唯一の物質がこちらのブドウ糖!ちなみに、ブドウ糖は二日酔いの時の低血糖を和らげる効果があるそうですよ(^_-)-☆
【ショ糖(スクロース)】私たちが普段お料理に使っている砂糖の主成分で、サトウキビやサトウダイコンなどから作られています。ブドウ糖と果糖が結合した糖類で、クセや嫌味がないため、どんな料理にも合わせやすい甘さが特徴です。加熱調理した芋に、「麦芽糖に次いで多く含まれる糖類」ですが、熱によって含有量の変化はないので、「未加熱の時点でどのぐらい含まれているか」がポイントになってきます。甘味が麦芽糖の約2.5倍もあるため、こちらも麦芽糖同様、さつまいもの甘さに大きな役わりを果たしています。
【麦芽糖(マルトース)】水飴の主成分としても知られ、ブドウ糖が2つ結合してできた糖類です。加熱調理したさつまいもに「最も多く含まれる糖類」ですが、生芋の状態では全く含まれていません。「加熱により活性化した酵素(β-アミラーゼ)」により、「加熱により糊化したでんぷん」から生成されるのが麦芽糖です。上手に加熱すると、焼き芋がねっとりと甘くなるのは、こちらの麦芽糖の生成と大きく関係しています。
ねっとり焼き芋の加熱方法
さつまいもの甘さに関わるポイントは、生育環境・貯蔵環境・加熱方法の3つですが、生育~貯蔵までは私たち農家がしっかりと行っておりますので、ここでは割愛し、加熱方法に焦点を絞ってご説明していきたいと思います!
【麦芽糖が生成されるメカニズム】
加熱調理において、キーポイントとなるのは、4つの糖類の内の「麦芽糖」です。麦芽糖は、「加熱により活性化したβ-アミラーゼ(酵素)」が「加熱により糊化されたデンプン」を分解することで生成される糖類です。いかにこの麦芽糖をたくさん生成できるかが糖度に大きく影響してくるのですが、β-アミラーゼが最も活性化する温度が50~60℃であるのに対して、さつまいもの糊化が始まる温度は、一般的な品種で70~75℃。
「あれ?β-アミラーゼが最も活性化する温度帯では、まだデンプンはほとんど糊化されていない??」
そうなんです。。。
β-アミラーゼがデンプンを分解できるのは、「糊化されたデンプン」のみであるにも関わらず、β-アミラーゼが最も活性化しているときには、まだデンプンは糊化されていないんです。β-アミラーゼは熱に弱く、75℃ぐらいになると至適温度帯のときと比べ、30%程度の活性しかなく、さらに温度が上がると完全に失活してしまします。では、ねっとりと甘いさつまいもにするにはどうすればよいのか??
まずは、「糊化温度の低い品種を選ぶこと」
糊化温度が低ければ、それだけデンプンの糊化が早く始まり、まだβ-アミラーゼが元気なうちに麦芽糖の生成を始めることができます。糊化温度の低い品種としては、クイックスイート(55℃)、紅はるか(65℃)やシルクスイート(65℃)、安納芋などがあげられます。
次に、「デンプンの糊化温度~β-アミラーゼが失活しない温度をできるだけ長く保つこと」これにより、β-アミラーゼに麦芽糖をたくさん生成してもらいましょう!
【ペクチンの軟化と硬化】
より多くの麦芽糖生成のため、焼き芋は低温で長時間焼いた方がねっとりと甘く仕上がるのですが、もう1つ、気にしなければいけないことがあります。
「ペクチンの硬化」です。
ペクチンとは、植物の細胞壁などに含まれる多糖類で、加熱により硬化したり、軟化したりする性質があります。
50~70℃で次第に硬化し、80℃以上で軟化します。
注目すべき点は、一度ペクチンが硬化してしまうと、その後、80℃以上でいくら焼いても、軟化しないということです。
ねっとり焼き芋を目指し、低温で焼きすぎると、ペクチンが硬化してしまいます。
ちなみに硬化してしまった焼き芋のお味は・・・、もう芋とは思えないほどのパッサパサの食感で全く甘みがありません(-“-)
【結局、何度で加熱すればいいの?】
私がオーブンで焼くときは、しっかりと180℃で余熱をしてから芋を入れていきます。
その後、180℃で60分(約250g)~90分(約400g)を目安に焼き、さらに余熱に30分ぐらいおいておきます。
詳しくは「オーブンで焼くねっとり焼き芋」レシピをご覧ください。
これは、ペクチンが硬化してしまうリスクを極力避けるため、できるだけ早く70℃以下を抜け、そこからデンプンの糊化温度(70~80℃)をキープしながら焼いていきたいからです。
※70~80℃はお芋の中心温度のことです。オーブンの設定温度ではありませんのでご注意を!!
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